vent about / Bad-mouth   〜の悪口を言う

 

上級のマナーを身につけてアカデミアで成功するための10のルール (Ten rules for (possibly) succeeding in academic through upward kindness)』

 

という面白い記事を見つけました.

 

John Tregoning氏によって書かれた10のルールは,研究者として大学で仕事をする方であれば,いずれも「確かに…」と納得するものばかりではないかなと思います.

 

中でも,ゴシップや悪口に対する注意喚起の文章が興味深かったので,メモしておきます.

 

While I want academia to be a better place, I am not a saint. There is clearly a place for venting about awful colleagues. Gossip is a fundamental human need, just above food on the Maslow hierarchy. But – and this is really important – pick your audience carefully. Don’t bad-mouth supervisors to their students and don’t bad-mouth students to their supervisors. When you must vent, choose a friend at the same level as you, who is not going to be swayed by what you say and is unlikely to pass the gossip forwards.

 

 

ventは「換気する」という意味ですが,vent about Aで「Aについて(悪口を言うことで)発散する,ガス抜きする」という意味になります.

 

また,bad-mouthは,その文字通り(悪い口),「悪口を言う」という意味です.

 

 

ここに書かれているように,人間は本質的に「ゴシップ」が好きな(必要な)生き物であるようです. 

 

 

しかしながら,ゴシップをventしたい欲望にかられたときは「その相手をちゃんと選びましょう (pic your audience carefully) 」とTregoning氏は述べています.

 

 

大事なことだと思います.

 

 

 

 

put oneself in the shoes of   〜の立場になる

ジャンル分析(genre analysis)が専門の一つでもありますので,研究成果を実践に活かすべく,最近は,学内外で「学術論文(Research Article)」というジャンルについて講演をしたり,具体的な執筆法についてワークショップをする機会が増えてきました.

 

 

教材はすべてオリジナルで作成したものを使っているのですが,さらに改良したもの,より参加者の先生方のニーズに応えられるような教材を作りたいと思っていました. そんな矢先,科学雑誌 "Nature"が,英語論文執筆法のオンライン講座を開発したというニュースを耳にし,早速,動画の視聴を申し込んでみました. 

 

 

"Nature"のエディター陣が「アクセプトされる論文を書くコツ」を伝授してくれるこのオンライン講座は,(ライセンスの期限が一年ということで三日坊主になったらどうしようという懸念はありましたが)期待をはるかに上回る良質な内容で,大変大変満足しています. 

 

 

今日は,"How to write the discussion section" の授業を視聴したのですが,講師のDr. Bart Verberck (Senior Editor, Nature Physics)が,「読み手の立場になって,読み手が求めているものを意識して書くことが大切」ということを強調されていました. 

 

 

It's a good idea to put yourself here in the shoes of a reviewer or a reader, and to anticipate any questions a reviewer or a reader might have.  

 

 

"put yourself in the shoes of A" で「Aの立場になって考える」「Aの立場になって物事を見る」という意味になります.

 

 

この説明の後半,「(文を書く際は)読み手があなたにたずねるかもしれないあらゆる質問を想定しなさい」というところも,英語論文に限らず,あらゆる文章において非常に重要なポイントだと思います. 

 

 

Natureのような自然科学系のトップジャーナルだと「客観性」や「中立性」が求められ,「私(I)」の存在は消すべきという議論があるのかと当初思っていましたが,「研究論文は,自身の研究を読み手が分かるようにストーリーにすることだ」ということが,このオンライン講座が伝えていることのように思いました. 文系・理系の違いに関係なく,論文の著者にも読み手を導くレトリックが必要ということなのだと思います.

 

 

 

 

 

■ give the floor to  発言権を与える

論文(Research Articles)というジャンルの特徴のひとつに,「自身 (the Selfの考えを述べながら,他者 (the Other) の考えを引用する」という談話構造があります.

 

 

論文の書き手は,このような談話構造を活用して,その分野において,自分がどのような立場を取っているのかを読み手に示します. これは,書き手のヴォイス(voice)とか,書き手のポジショニング(positioning)と呼ばれる行為です. 

 

 

このような特徴を考えると,「論文は客観的・中立的であるべきで,私 (I)』の存在は消すべき」という説は(おそらく多くの方が聞いたことのある説ではないかと思います)正しくない,と言えるのではないでしょうか. 実際,この説は,最近は「古いしきたり」となり,論文の中で「私(I)」を使うことが推奨されるようになってきています (Hyland & Guinda, 2012).

 

 

Kjersti Flottum というノルウェーの研究者は,アカデミック・ディスコースを専門としている方ですが,「論文は読み手を納得させるために書かれるレトリカルなものであり,ポリティカル・ディスコースとほとんど変わりはない」と述べています.

 

 

 (原文:the research article is always addressed (i.e. directed to someone) and even if this manifestation of addressivity may vary in different traditions, the research article constitutes a piece of communication whose final rhetorical aim is to persuade the audience (...) In this respect academic writing may in some contexts appear as not very different from political discourse. Flottum, 2012, p. 221)

 

 

そして,読み手を納得させるために,書き手(the Self)は,しばしば他者(the Other)の見解を引用します. Flottumは,この行為を「書き手が他者に発言権を与えている」と表現しています.

 

 

To be persuade, the author of a research article must give the floor to the Other, either explicitly ... or implicitly (Flottum, 2012, p. 221).

 

 

 

"give the floor to A"で「Aに発言権を与える」という意味になります. 学会の場で司会者がスピーカーを紹介したり,次の発表者へバトンタッチする時に使われるのを聞いたことがあります.

 

 

Let's give the floor to Professor X.

 

Mr. X, you have the floor / the floor is yours.

 

I'll now hand over the floor to Dr. X. 

 

 

「他者の考えを引用する」という文脈で,また書き言葉として" give the floor to"が使われるのを見たのはこれが初めて,印象に残りました.

 

2018. 8. 29

Flottum, K. (2012). Variation of stance and voice across cultures. In K. Hyland & C. S. Guinda (Eds.), Stance and voice in written academic genres (pp. 218-231). Palgrave Macmillan. 

 

 

Hyland, K. & Guinda, C. S. (2012).  Stance and voice in written academic genres. Palgrave Macmillan. 

 

 

 

 

 

 

 

■ take up the slack  代理を務める 不足を補う

ここ数年,学外の仕事を引き受けることが増えてきたのですが,最近,2つの仕事が同じ日の同じ時間帯に重なってしまい,一方の仕事を欠席せざるを得ない状況になりました.

 

 

その仕事は,複数の先生方と協力してチームで進めているので,欠席が躊躇われたのですが,今回はどうしようもありません. おそるおそるチームの先生方にメールを書いたところ,こんな返事が届きました.

 

 

 

No worries about missing the first day.  We will "take up the slack” from your absence. 

 

 

"take up the slack"は,欠席する人にたいして「その代わりを務める」,「不足を補う」という意味で使われるようです.

 

 

"slack"という単語自体は,「(ロープの)ゆるみ」という意味があって,"take up the slack"は,元々は「ゆるんだロープをぴんと張る」という意味があるようです. 綱引き(tag of war)のイメージですね.

 

 

一人が欠席したことで「ゆるみそうになるかもしれないロープ」を,残った二人で「ピンと張る」努力をしますよ,ということなのかもしれません.

 

 

いずれにしましてもご迷惑をおかけします.

 

 

2019. 8. 14

 

 

 

 

■ reclaim Your (s)pace  自分のペースや居場所を取り戻す

元々すごく社交的というわけではなく,「外向的(extrovert)」か「内向的(introvert)」かの二項対立のスキームで自分の性格を描写するならば,どちらかというと「内向的に近い (closer to introvert)」ということになるかと思います(しかしながら,人の性格は常に静的(static)なものかというとそうではなく,どんな状況にいて,どんな目的で,誰と話しているかによって変動する動的(dynamic)なものである,という視点も重要ではあると思いますが).

 

 

 

ここ数年は,共同プロジェクトに関わる機会も増えてきて,それに比例して「懇親会」という名目のお食事会の機会も増えてきました. 「素敵なレストランでおいしいお食事とお酒をいただきながら,いろいろなバックグラウンドの素敵な方々と交流し,自身の視野を広げ,自身のネットワークも広げていくことができました,オホホ」的なコメントがFacebookでextrovertな方々から発信されるのをよく見かけますが(「オホホ」は余計でした),限りなくintrovertに近い敏感肌の人にとって,「懇親会」は,やや刺激強でいつもの快適な自分のペースや居場所を譲歩する時間となります.

 

 

 

そんなわけで,楽しく有意義であった懇親会の後は,その充実感にひたりつつも,自分のペースや居場所を取り戻すひとりの時間も必要になります.

 

 

 

The great food and socializing yesterday was fun, but it threw this introvert girl off balance, and I need some alone time to reclaim my (s)pace. Now I feel recharged and am ready to work and have more fun. 

 

 

 

米国在住の先生がおっしゃっていたことです.「自分のペースや居場所を取り戻す」ことを,"reclaim my pace"や"reclaim my space"と表現します.

 

 

 

そういえば,自分が教師を目指した理由のひとつとして「内向的な自分の性格を変えたい」という思いがありました. 確かに,多くの生徒や学生と触れ合う機会を通して,学生の頃よりはうんと外向的な性格に近づいたと思います. しかし,おそらく自分の努力では変えられない「生まれつきで先天的な」部分というのが,人の性格にもあるのかもしれないなと感じる今日この頃です. 

 

 

 

2019. 6. 9

 

 

 

 

 

 

■ embark on 〜を始める,〜に取りかかる

 2018年(平成30年)12月20日. 天皇陛下が「天皇」として迎えられる最後のお誕生日に際し,国民に向けてお言葉を述べられました.

 

 

第二次大戦後から現在までの日本の歩みを振り返るスピーチの中で,陛下が皇后さまに向けて語られた言葉が印象的でした.

 

 

Looking back, it was soon after I embarked on my life’s journey as an adult member of the Imperial Family that I met the Empress. Feeling a bond of deep trust, I asked her to be my fellow traveller and have journeyed with her as my partner to this day.

 

振り返れば,私は成年皇族として人生の旅を歩み始めて程なく,現在の皇后と出会い,深い信頼の下,同伴を求め,爾来(じらい)この伴侶と共に,これまでの旅を続けてきました。

 

 

"embark on ...”は,「(船や飛行機)に乗り込む」,そこから「(新しいこと)を始める,着手する」という意味になります.

 

 

"embark on my life's journey"「人生という旅を始める」という表現には,大航海に出るために船に乗り込むというニュアンスがあり,先の見えない不安から逃げない勇気,そして希望が感じられて,とても素敵な表現だと思いました.

 

 

また,天皇陛下が皇后さまのことを "my fellow traveller"(旅の同伴)"と描写している点も,お二人の絆の深さがひしひしと伝わってきて,温かな気持ちになりました.

 

 

平成最後のお誕生日でのスピーチは,第二次大戦後から現在までの日本の歩みを振り返り,天皇陛下だからこそ語れる心に響くお言葉であふれています. 学生のみなさんにはぜひ英語版もじっくり読んでほしいと思います.

 

 

日本語版:http://www.kunaicho.go.jp/page/kaiken/show/25

英語版:http://www.kunaicho.go.jp/page/kaiken/showEn/25

 

 

 

 

 

 

■ Put yourself out there

put yourself out there: 「勇気を出してやってみる」「自分をさらけ出してみる」

             (直訳:枠の外に (out there)自分を置いてみる (put yourself))

 

 

2019年1月1日.亥年.元旦のJapan Times "New year, new opportunities: What to expect in the Year of the Boar"という記事の中にあった文章です.

  

 

According to Moe*, of all 12 Chinese zodiac signs, those born in the Year of the Boar can expect to have the best 2019.

 

“All they have to do is put themselves out there a bit and they will find success easily,” she says, adding that they will also achieve balance between daily tasks and personal needs.

 

 

亥年のあなたへ.勇気を出してやってみること.自分をさらけ出してみること.2019年の成功のキーワードです.

 

*Cathryn Moe氏 (Astrologer)